研究概要 |
本研究「環太平洋における東アジア系ディアスポラ戦後文学の関係史的研究」の目的は、これまで各国語・各国民文学においてマイノリティ文学として周縁化されてきた、環太平洋地域の東アジア系(日系、朝鮮系、沖縄系)ディアスポラの戦後文学作品を、地政学的、国際政治的に密接に結びついた関係史的な観点から分析・考察し、今日のグローバル状況下の先進諸国ではむしろ確固たるジャンルとなりつつある「移民文学」や「ディアスポラ文学」のダイナミクスが提示されたものとして読み直すことである。 平成22年度の調査では、在日朝鮮人文学を対象に、従来、日本近代文学(史)の中で、「異端」として取り扱われてきた在日朝鮮人の文学作品群を、植民地主義下での移動を強いられたディアスポラの表現という観点から再考することで、在日朝鮮人文学が戦後日本における歴史的な表象体系に異議申し立てを訴えるものであったことを考察した。これまで日本近代文学の「異端」としてしか理解されてこなかった在日朝鮮人文学が、上述の視点を提示していることで、いわゆる文学ジャンルにおける意義を超えて、国民史を前提にした従来の歴史観に対する稀有な異議申し立てになっていることを、文学研究や歴史学、社会学などを横断する学際的なアプローチで論じた。なお、この成果はHyon Joo Yoo Murphree & Naoki Sakai, ed., Transpacific Imagination, World Scientific Publication Company, 2011に論文として発表予定である。 また、本研究の過程で、環太平洋ディアスポラを植民地主義だけでなく、人種主義の観点から考察することの重要性を認識し、その研究も発展させているが、日本における差別問題を、明治以後の帝国主義によって構築された人種主義という観点から、独自にとらえなおす視点の設定を提示することもできた。
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