平成22年度は、茨城県五浦に移転した日本美術院の地域との関わりと、「岡倉天心」顕彰にみる岡倉像の変遷について考察した前年度の成果を踏まえて、岡倉の生涯の思想や活動における「五浦時代」の意義について考察することを目的とした。 課題追求のために、前年度から継続して新資料の発掘や調査を実施した。主に茨城県立歴史館、野口雨情生家資料館、小杉放菴記念日光美術館、井原市立田中美術館等が所蔵する資料を調査し、データを収集した。同時に、これまで収集した資料のデータベース化を行った。前年度筆耕が終了した日本美術院関連画家の書簡については、半分程度データ入力が済み、新資料として紹介する準備が整いつつある。一方、お茶の水女子大学比較日本学教育研究センターのプロジェクト「哲学、倫理、宗教、科学思想に関する比較思想的研究」の研究会で、岡倉の芸術思想と五浦との関係性について議論を深めた。 このような活動を通して(1)五浦に拠点を移した岡倉のネットワーク構築、(2)移転した日本美術院に対する地域の支援、(3)地域における「岡倉天心」顕彰の諸相について、より明確にすることができた。さらに、岡倉の「五浦時代」が(1)日本美術院移転前後と文展後で異なる様相を呈しており、それがボストン美術館中国日本美術部経営と連動していること、(2)渡印の経験が、後の五浦移転と渡米に影響を与えた可能性があることが浮かび上がった。これらの研究成果を『茨城大学五浦美術文化研究所紀要五浦論叢』第17号、『比較日本学教育センター研究年報』第7号への論文執筆、茨城県北ジオパーク「インタープリター」養成講座の講義、近代茨城地域史研究会での口頭報告として発表した。
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