平成23年度は、主に(1)岡倉のインド体験と五浦移転との関係性、(2)「五浦時代」の相反するイメージと五浦の位置の変容という課題に取り組み、社会に発信した。具体的な内容、意義等は以下の通りである。 (1)岡倉の仏教徒としての側面と、ヒンドゥー僧ヴィヴェーカーナンダとの交流が、帰国後の五浦発見に影響を与えた可能性について論文を執筆し、『茨城大学人文科学研究』3号に発表した。『茶の本』との芸術思想と「五浦」空間との関係性についても本論文で言及した。さらに岡倉が訪問したコルカタのベルル・マトやシャンティニケトンなどで実地調査を行った。視察と現地資料の入手により、さらに論旨を発展させる手がかりを得た。 (2)「五浦時代」が相反する「隠棲地」「日本美術院移転先」のイメージを持つことについて問題提起をし、フェノロサ学会で報告した。岡倉の日米での活動を比較することによって、その相互連動性から、時期によって五浦の位置が変容することを指摘した。報告内容をまとめた論文を学会誌『Lotus』に投稿し、第32号に掲載が決定している。 一方、これまでに調査して収集した資料のうち、書簡や日記の文字資料はすべて筆耕し、データ入力を終えた。デジタル撮影した画像資料は、データベース化がすべて終了した。3年間の研究の集大成として、発表論文をまとめた単著を『五浦論叢歴史叢書』として刊行するため、現在準備中である。 また、岡倉のボストン美術館経営と未発表の英語著作を論じた著書『岡倉天心の比較文化史的研究-ボストンでの活動と芸術思想』を思文閣出版から刊行した。さらに、東日本大震災で流失した六角堂の再建を記念した「五浦と岡倉天心の遺産」展において、図録の執筆を担当し、研究成果を反映した年譜を作成した。
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