現在所在が確認されている『水滸伝』版本のうち、文簡本各種の内容について概ね把握できた。 まず百二十四回本については、光緒五年大道堂刊本を年度初めに幸いにも信州大学附属図書館に収蔵することが可能になった。基本的な情報の報告に若干の考察を加えて「百二十四回本『水滸伝』について」と題し、すでに発表している。 また『新刻出像京本忠義水滸伝』百十五回本の八巻本および十巻本について、それぞれを所蔵する南京図書館と北京の国家図書館に赴き閲覧調査を行なった。それによって得られた知見については、「両種"出像本"《永滸》在百十五回諸本中的位置」(仮題)なる一文を用意し、公表の機会を待っている。 さらに三十巻本については東京大学総合図書館蔵本のマイクロフィルムを入手して、その特異性が明らかにったため、これを論ずるべく一文を草したが、フランス国立図書館に蔵される異本についても、年度末が迫る頃ようやく画像資料が到着し、より認識を深めることができたので、改稿のうえ発表の機能を得たい。 そして『漢宋奇書』本についても東京大学東洋文化研究所と国会図書館所蔵分を検討して、後出ながら篏図本や出像本に勝るとも劣らぬ重要性を有する版本であることが把握できたので、上述の拙稿においてその一端を指摘したが、さらに別稿で論じたい。 従来簡本という言葉で一括りにされてきた諸版本それぞれの特徴と関係がかなり明らかになったことは少なからぬ意義を有し、本研究を進めるうえでも初年度に当たって一定の基礎固めができたと言えよう。
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