論文「元積との永訣-白居易「微之を祭る文」をめぐって」は、白居易が親友元積の棺を前に、その霊を祭った「微之を祭る文」を分析して、両者の最後の邂逅から永訣に至るまでの経緯を明らかにし、さらに、関連の詩作を対比・熟読することによって、元積と白居易とは晩年には不仲であったという、いわゆる「隙終」説の誤りを正したもの。「白居易「微之を祭る文」訳注」は、論文執筆の前提として「微之を祭る文」に解題・訓読・語釈を付し、現代日本語に翻訳したものである。 論文「文学研究の意義とよろこび-なぜ、白居易の「長恨歌」は傑作なのか-」は、愛媛大学法文学部と新潟大学人文学部の共編になる学術書『人文学の現在』に収載されたものであり、「芸術とは、存在の真実の作品化」であり、「中国文学の特徴(の一端)は、善の優位と恋愛要素の希薄さ」に求めることができること。また、そうした視点から「白居易の文学的特徴とその根底」を明らかにし、その代表作である「長恨歌」が、なぜ普遍性を有する傑作となり得たのかについて、主に、「此恨」という詩語の用例分析を通して、明らかにした。その結果、白居易は「長恨歌」において、玄宗・楊貴妃の、個別の悲恋、を表現しつつも、それを通して、さらに、<愛と死の宿命>を免れ得ない、<人間の普遍性=生の真実>を本質呈示しており、それゆえに、「長恨歌」は、中国古典文学、ひいては世界文学の、代表的傑作と成り得たことを、確認するに至った。論文「中唐恋情文学と平安朝の美意識-<文化ダイナミズム>の視座から-」では、中唐の恋愛文学を支えた主要な美意識は<風流・好色・多情>であり、これが、平安朝の美意識たる<みやび・色好み・あはれ(情)を知る>の内実およびその変遷にも、深い次元で影響を与えていたことを明らかにした。
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