平成21年度は白朗に関する資料収集、資料整理と平行して彼女の初期文学活動に関する研究を進め、平成22年度は更に白朗の中期文学活動(抗戦期)に関する研究を行い、小論を作成した。 当初は、これらの研究に続き白朗の後期活動について明らかにし、更に視野を中国近現代文学全体に広げる計画であったが、党員作家として活躍し、海外で開催された国際婦女連合会などにも参加した白朗が、反右派闘争や文化大革命においてなぜ、またどのように批判されたのか、その事が理由で心を病み、筆を折るに到ったと言われているが、彼女の中でどのような葛藤があったのかを知るためには、彼女の政治的背景や思想について更に深く知る必要があると感じた。そのため、平成23年度はまず白朗の作家としての活動の礎を形作った、哈爾浜時代の中国共産党地下党の文芸政策と文芸との関係から改めて考察を行った。資料と情報の収集のため、2011年5月末に哈爾濱で行われた蕭紅生誕百周年記念行事に合わせて中国を訪問し、中国の多くの研究者と交流し、また図書館などで資料を収集した。更にソウルを訪問し、白朗が国際婦女連合会の調査員として従軍した朝鮮戦争に関して知識を深めることができた。 また中国近現代文学において比較的早期に誕生した女性作家白朗の文化的背景を知るため、同時代の中国の女性たちがどのような立場に置かれていたかについても平行して考察を進めた。白朗の出身地藩陽で発行されていた《東三省民報》の記事を手がかりとして考察を試みたが、中国の女性史に関しては、これまで南方を中心に研究が行われ多くの研究成果があるものの、中国東北部に関してはほとんど手つかずと言ってよい。今後更に研究が必要な分野と言うことができる。 既に記したように、白朗を通じて中国近現代文学にアプローチするという当初の大きな目標は達し得たとは言えないが、その目標に到るための足固めはできたと自負しており、また白朗に関してのまとまった研究としても、中国東北部の女性研究としてもこれまでにない成果を上げることができたと考えている。
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