中国の近世の戯曲小説中の異体字研究の基礎資料として、「『宋元以来俗字譜』補正(2)一『全宋平話三国志』-」(「明治大学教養論集」458号)、「中国近世戯曲小説中の異体字研究(3)一『劉知遠諸宮調』-」(「明治大学教養論集」467号)、「中国近世戯曲小説中の異体字研究(4)-『大唐三蔵取経記』-」(「人文科学論集」57輯)を作成した。これら三本の論文は、『宋元以来俗宇譜』を補正して新しく近世の戯曲小説の作品ごとに異体字を集めて索引を作るという本科研費の計画に即した基礎的成果である。取り上げた『全宋平話三国志』、『劉知遠諸宮調』、『大唐三蔵取経記』などの作品は、南宋から元にかけての作品で、中国の近世文学史上最も重要な初期の作品である。これらの異体字資料をもとに写本である南戯「劉希必金銀記」がどのように成立したかを研究する重要な基礎研究である。この作業を継続して、「中国近世戯曲小説異体字字形字典」を作成するのが、一つの目的である。 また私は、南戯の成立の問題を解明する重要な一環として、南戯「劉希必金釵記」を研究している。そのような意味で、明代の初期に江西省・安徽省などの地域で成立したとされる「弋陽腔」(中国の地方演劇の劇種)の歴史は、重要な意味を持つ。この地方戯が、どのように移動したのかということも、南戯「劉希必金釵記」の成立解明にとって重要である。この弋陽腔の後身として「青陽腔」というものがあり、偶然であるが「青陽腔学術研究会」が江西省九江市九江学院大学で開かれたので、参加して論文を発表した。この時現地で「青陽腔」の上演を見学することができ、非常に参考になった。また、現地の研究者と交流して、日本では得難い資料を手にすることができた。このような成果をもとに、「劉知遠諸宮調と戯曲白兎記と安徽省の青陽腔白兎記の可能性」(「教養論集」462号)を執筆した。初期の弋陽腔の中には、琵琶記などの作品と並んで重要な作品に「白兎記」がある。これは、この白兎記に関して、論じたものである。
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