1. 平成22年度に実施した調査内容 昨年度の調査・研究によって明らかになった、アルゼンチンにおける日本の詩歌受容のプロセスを踏まえ、「ボルヘス国際財団」および「ブエノスアイレス大学」において現地調査を実施した。また、平成22年10月の国際学会において、1960年代にアルゼンチン独自のハイク形成に貢献した作家、作品についての新たな知見が得られた。さらに平成23年2月実施の「俳句文学館」での文献調査において、アルゼンチンでのスペイン語ハイク普及に貢献した二人の日本人移民(久保田古丹、崎原風子)が、アルゼンチンでの活動と同時期に日本の句誌に発表していた作品および俳句論、文学論についての資料を収集した。またこの二人の作品を対象とした他の俳句作家による評論も入手した。 2. 意義 (1) アルゼンチン・ハイクのテーマが、自然、人事、社会、宗教など多岐にわたること、また、その多様性を持った作品に通底する詩形と詩学に対する関心が高く、固有の形式と内容を備えたジャンル形成への傾向を持っていることが確認できた。また、ハイク作家達の活動が、首都やその近郊のみならず、内陸部、南部に広がることを確認した。 (2) 久保田古丹と崎原風子が戦前の新興俳句、戦後の前衛俳句運動につらなるいくつかの句誌に作品や記事を発表していたことが確認できた。その結果、アルゼンチンでのハイク普及活動に反映されたと思われる彼らの俳句観が一層明確になり、今日のスペイン語ハイク形成過程を決定していった諸要因の解明を一層進めることができた。
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