1920年代から1940年代半ばにかけて、当時日本の統治下に置かれていた南洋群島ミクロネシアを訪れた日本人作家達の旅行記や小説について、次の点に留意しながら研究を行った。(1)航路の途上で見たものや船内で出会った人や光景など、航路が記述にどのような影響を与えたか。(2)何に着目し、何から目をそらしているか。その背景・理由は何か。(3)「南洋」「南島」のイメージがどのように影響しているか。欧米でのイメージとの関係はどうか。また、既成のイメージに対してどのように抵抗しているか。(4)現地民の視点や現地の文化をどのように捉えているか。それらによりどのような影響を受けているか。 また、日本統治の中心地であったパラオの伝統的建築物(バイ)、彫刻絵(イタボリ)、初めてヨーロッパを訪れたパラオ人リー・ブーに注目し、これらがイギリス等ヨーロッパとの接触、日本及び日本を引き継いだ米国によるパラオ統治、さらにパラオ独立を経て、どのように文化的アイコン・観光のシンボルとして成立し、変容し、再発見され、応用されてきたかを、比較文学・文化的に考察した。 ミクロネシアは「日本の植民地主義と文化」という問題系の中で、大陸(中国・朝鮮)や国内(沖縄・北海道)と異なる側面を持つ重要な地域だが、これらの地域と比べ、比較文学・文化研究においてミクロネシアが扱われることは極めて珍しい。 以上の研究を、日本比較文学会関西支部の月例会・シンポジウムにおいて口頭発表した。 さらに、「南島」「太平洋」を舞台・テーマとする日本の小説、音楽、漫画等を素材に、ヨーロッパの文学、アメリカの大衆文化、太平洋諸島の伝説等との比較及び影響関係を論じた英語論文を海外の学術誌(査読あり)に投稿し、掲載が決定した。
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