「研究の目的」に記した通り、日本文化と太平洋(南洋)との関わりに着目した比較日本文化論研究を行った。「研究実施計画」に則して、日本の大衆文化における「南洋」のイメージの問題を扱い、特に、第二次世界大戦時に制作され、国内及び南方の占領地において上映された日本のアニメーション映画「くもとちゅうりっぷ」を素材として、日本における南洋植民地の表象の問題について考察し、研究発表を行った。この作品については先行研究が存在するものの、日本人の「南洋」イメージという観点からなされた研究は存在せず、日本の太平洋世界(特にオセアニア、アメリカ)との関わりという文脈の中に、日本のアニメーション映画を位置づけ、その表象について欧米文化や日本の伝統文化の影響を明らかにした。日本本土のみならず、南方の占領地でも上映されるということが、制作において南方の人々からの視線を意識することとなり、そうした意識が日本から南方に向けられた視線と関わりながら、どのような形で映画の表象に影響を与えたのかを示した。日本の伝統的な「異類婚」の物語構造がこの映画にどのように影響したか、そうした物語構造が太平洋を舞台とする戦争という時代背景の中でどのように要請され、機能したのかについても考察した。 また「研究実施計画」に則して、パラオの伝統文化と日本文化との関わりについて調査を行った。さらに、ロンドンで客死し神話化されたパラオ人についてのヨーロッパ、日本、パラオにおける文学表象の比較検討を進めた。
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