平成21年度は、「沖縄人」をテーマにした作品を含めた、「顔」をモチーフとした近現代の写真や絵画などの資料収集に重点を置く一方、特に「他者」とのコミュニケーションの「場」としての観点から、「顔」について論じた文献などの先行研究にできるだけ目を通し、「顔」の表象全般に関する理解、知識を深めた。こうした基本的な文献や資料の収集は、これまで文学作品やマンガ作品が中心であった分析対象のメディアの幅を格段に広げることができた。 また、理系の研究者や化粧、美容関係者も多く参加している日本顔学会のフォーラムに参加し、さまざまな分野での「顔」研究へのアプローチ方法や最新情報を得た。加えて、山形国際ドキュメンタリー映画祭に参加したことは、「顔」に注目した映像分析の有効性についての確認が十分にできた。この二つのイベントに参加することを通じ、人脈が広がり、情報交換ができたことは、有意義であった。 初年度は、文献や資料の収集、および収集した素材の分析を積み重ねる時期と位置づけているため、本研究の直接なテーマである「沖縄人」の「顔」表象に絞っての論考の発表は行っていない。ただ、本夏に刊行予定の『手塚治虫とオキナワ』(仮題)において言及する、マンガ表現における人と動物の「顔」の描かれ方の分析などに、間接的ではあるが本研究の成果は着実に表れていると考えている。 残された課題は、最終年度(平成23年度)に予定されているシンポジウムを通じての"情報発信"に向けた引き続きの準備と、中間報告を兼ねた論考の発表である。平成22年度にぜひ取り組みたい。
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