平成22年度に行った文献・資料の収集で特に重点を置いたのは「沖縄人」の「顔」が、どのように意識され、分析されてきたのかについて、民俗学あるいは民族学(文化人類学)といった研究分野を念頭に置きながら、先行研究で確かめることであった。そのために、県外の国立民族博物館(大阪府)、奄美博物館(鹿児島県)に出張したほか、沖縄県内の各博物館・図書館でも、「顔」にテーマを絞って調査を行った。その結果、明らかになったのは、地域の伝統的な祭祀における「仮面」の調査・研究はあっても、直接的に「沖縄人」の「顔」を言及する内容のものは、雑誌の特集などでわずかに見られる程度であり、学術的な考察はほぼなされていないという点であった。そのことは、いつも見ているはずの他人の「顔」や「顔」の表象が、あまりにも当然すぎて、分析対象とならない意識の"盲点"の表れとも考えられ、むしろ本研究のテーマ設定の斬新さを再確認することにもなったが、祭祀における「仮面」の役割などは、地域共同体における「他者」観、ひいては「他界」観とも密接に関わっていることも分かり、当初考えていた研究の枠組みに、新たな視点を加えることができた。 また、最終年度(平成23年度)に開催する、「顔」をテーマにしたシンポジウムの打ち合わせや、情報交換のために実施した名古屋への出張などを通して、「顔」の研究のネットワークづくりを着実に進めることもできた。他大学・研究機関の、映画研究や人類学といった分野の研究者との間で築いてきた信頼関係は、これからの研究成果の"情報発信"に大きく役立つものと考える。 一方、これまでに収集した文献、図録、写真集、映像資料などを整理し、「顔」の表象分析のアプローチ方法の提示や、重要なテクストの分析を試みた論文を、学内紀要に発表した。その作業を通じて、今後の研究課題などを洗いだし、最終年度の研究につなげることができたのは有意義であった。
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