研究概要 |
本研究は、日本語における主語・目的語の省略現象を比較統語論的に分析し、それに基づき複数の言語に見られる空主語・空目的語の類似点・相違点を精査し、それらの背後にある普遍文法の原理・パラメーターを解明することを主たる目的としている。平成22年度においては、前年度の研究成果を踏まえ、主語・目的語省略についての日本語と中国語・トルコ語の比較に関する研究を論文にまとめること、及び考察の対象をバスク語やマラヤラム語などに拡大することを計画していた。 平成22年度の研究実績としては、まず主語・目的語省略についての日本語と中国語・トルコ語の比較に関する研究を論文の形でまとめた(Argument Ellipsis,Anti-agreement,and Scramblingというタイトルの論文で、現在査読審査中の論文集に掲載予定)。そこでは、当該省略現象の通言語的分布は一致現象の有無により説明できる可能性、及び先行研究で提案された、当該省略現象と自由語順現象を結びつける仮説は妥当ではないことを論じた。 研究実績の第2点目としては、マラヤラム語の空主語・空目的語構文を調査し、その空主語は省略により派生されるものではないこと、空目的語は日本語のものと同様省略により派生されうること、及びマラヤラム語は主動詞を残留させる形の動詞句省略を許すことを発見した。目下、これらの事実が一致現象の有無という観点からどのように捉えられるかについて考察を深めている。なお、当初平成23年3月に予定していたバスク語の現地調査は、震災の影響により平成22年度中に行うことができなかった。平成23年度に延期をして実施することを望んでいる。 上記の研究成果の意義は、表面的には似ている言語でも、それらの空主語・空目的語は異なる特性を持っていることが一層明らかになり、そこには新たな変異の形(マラヤラム語)があることがわかったことである。この相違を一致現象を含め他のどのような特性と関係づけて分析するか引き続き研究を進める。
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