研究概要 |
本研究の目的は,平成21-23年度の3年度間を実施期間とし,声調言語圏の伝統音楽のメロディー及びリズム形式を調査することにより,「伝統音楽の形式決定への言語情報の関与」という観点からの新たな言語類型を提案することにある。本研究はまた,アメリカ合衆国ラトガース大学準教授Young-mee Cho氏を研究協力者(海外共同研究者)とし,その結果を,Cho氏との過去の共同研究で得られた,他の韻律上の特徴を持つ言語圏の伝統音楽に関する研究結果と比較対照することにより,上記の目的を達成するものである。 平成21年度の研究では,北京語圏のわらべうたの特徴について調査することにより,伝統音楽におけるアウフタクト(=Auftakt[Ger.],upbeat[Eng.],弱起のリズム)の生起要因を,表層レベルでの強勢の弁別機能であるとしたが,平成22年度には,まず,この研究結果をベルリン自由大学(ドイツ連邦共和国)で開催された6th International Contrastive Linguistics Conferenceにて発表した(9月30日)。この際受けた指摘がきっかけで,平成22年度後半には,ベトナム語圏の伝統音楽ついて調査することとなったものだが,事実ベトナム語圏のわらべうたにはアウフタクトがかなりの頻度で観察されることがわかった。ベトナム語は韻律上強勢ではなく声調が弁別性を持つ言語なので,この調査結果は上に記した伝統音楽におけるアウフタクト成立条件と矛盾するが,ベトナム語の声調の持つ北京語とは異なる様相を示唆するものであるという点で興味深い。 平成23年度には,ベトナム語圏の伝統音楽及びベトナム語の声調に関する調査を継続しながち,Cho氏との共著論文を完成させる計画である。また,研究結果の公開も行う。
|