研究概要 |
本研究は,「伝統音楽の形式決定への言語情報の関与」という観点から声調言語圏の伝統音楽のメロディー及びリズム形式を調査することにより,新たな言語類型を提案することを目標とする。また,研究期間は平成21年度から23年度までの3年度間であり,アメリカ合衆国ラトガース大学準教授Young-mee Cho氏を研究協力者(海外共同研究者)として実施したものである。 本研究の最終年度の平成23年度には,前年度までの研究結果を再検討し,発展させるとともに,Cho氏との共著論文作成に着手した。 平成21年度の研究で,伝統音楽におけるアウフタクト(=Auftakt [Ger.],upbeat [Eng.],弱起のリズム)の最大の生起要因は表層レベルでの強勢の存在であると結論づけたが,平成22年度には,他の研究者の指摘により,ベトナム語の場合,声調言語とされている(すなわち表層に強勢が存在しないとされている)のにもかかわらず;この言語圏の伝統音楽にはアウフタクトがかなりの頻度で観察されることがわかった。 平成23年度には,まず,この結果の強い裏付けとなる資料としてベトナム各地の伝統的なわらべうたを採譜し編集した幼児のための歌謡集を3冊入手し,そのうちの1冊の場合などには,収められた50曲のうち32曲にものぼる数でアウフタクトが観察されることを確認した[1]。さらに,複合語の分析に基づいた最近の研究に,ベトナム語の表層強勢を強く示唆するものがあることも明らかになった[2]。結果として「ベトナム語には表層の強勢が存在するのではないか」ということになるのだが,この点については,今後のCho氏との共同研究の中で追及していきたい。 [1] Nu Na Nu Dong : Tuyen tap cac bai hat dong dao viet cho thieu nhi, Nha Xuat Ban Am Nhac : Ha Noi, 2010. [2] Nguyen, A-T.T and John C.L.Ingram, 'Acoustic and perceptual cues for compound-phrasal contrasts in Vietnamese,' in Journal of Acoustics Society of America, 122(3), pp.1746-1757, 2007.など。
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