研究概要 |
研究の目的 人間言語のチェイン構造解明のために、可視的連続循環移動を示すセラヤリーズ語のWH疑問文におけるCOMP削除現象を綿密に調査し、どのようなチェインパターンが可能となるのかを明らかにすること。そのために、セラヤリーズ語の母語話者のHasan Basri博士の協力を仰ぐこと。 研究成果の具体的内容 Finer(1997)がセラヤリーズ語において、WH疑問文を調査することによって、可視的循環移動の証拠を提示した。平叙文では、埋め込み文が一つの場合、主節の動詞にiという要素、埋め込み節の主要部に、kuko 'COMP'が出現するが、その節内部の句をWH移動すると、kukoとともに、iという要素が消去されなければならない。 同時に、Finer (1997)は、埋め込み節の主要部に、COMPが出現するにもかかわらず、主節の動詞にiという要素が脱落する例も発見し、セラヤリーズ語は、混合チェインを持つと結論付けた。つまり、最初のケースでは、movement(移動)のみが、そして、次のケースでは、resumption(非移動)と移動が混成しているということである。より明示的に示すと、それぞれ、以下のチェインを持っていることになる。 1 a. movement-movement b. movement-resumption ところが、Finer(1997)は、論理的に可能な他の二つのチェイン(2a,2b)を持つデータが文法的文であると報告していない。 2 a. resumption-resumption b. resumption-movement そこで、この調査で、私は、(2)のチェインが、セラヤリーズ語で可能かどうかを、母語話者であるHasan Basri氏を日本に招聘し、共同で調査し、その結果、(2a,2b)のチェインは、実際にセラヤリーズ語で可能であることが分かった。 意義と重要性 本調査によって、セラヤリーズ語は、論理的可能なチェインの組み合わせ全て4通りを容認することを示した。これは、アイルランド語において、5つの論理的可能なチェインが存在することと並行的であり、人間言語のチェイン形成は、movementとresumptionを原理的に自由に使用できることを示している。
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