研究課題/領域番号 |
21520403
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
山森 良枝 同志社大学, グローバル・コミュニケーション学部, 教授 (70252814)
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キーワード | パースペクト・シフト / 括弧 / De Re / De Se / 従属節時制 |
研究概要 |
今年度は、一つの文内で異なるパースペクトが混在している事例として、前年度に引き続き、括弧と従属節のテンス形式を主たる研究対象とし、これまで具体的につかむことができないかったパースペクト・シフターの主要因として、文脈パラミター(発話主体、報告者、時間、世界)の中の何が実質的に関与しているのかの究明に着手した。 括弧は、当該文脈とは異なる文脈を導入することにより、結果的にパースペクト・シフトを顕在化する機能を有することが前年度までの研究で確認されているが、今年度は、このような機能を持つ括弧とDe Re報告⇒De Se報告間のシフトを引き起こすlogophorとの親和性に着目することにより、文脈パラミター中、<発話主体>のシフト、すなわち、当該発話/命題は誰の発話か、に関する著作権のシフトがパースペクト・シフトのトリガーとして本質的に関与するという実態をつきとめることができた。また、これと並行的に、従属節における(定説である相対的テンス説では説明できない)ル形の使用は、De Se報告⇒De Re報告へのシフトを知らせるトリガーとしての機能を持つことがつきとめられた。つまり、このようなcanonicalではないル形の従属節での使用は、当該発話/命題の元話者へのシフトを示すものであり、ここでも<発話主体>のシフトがパースペクト・シフトを引き起こすトリガーとして本質的に関与することが明らかになった。 これらの研究の遂行にあたり、海外の最新の情報を入手するために、European Summer School in Logic, Language, and Information(ESSLI)(於・スロベニア)に参加した(旅費)。これらの研究成果は第28回日本認知科学会(於・東京大学)における発表や論文として刊行した(旅費・備品費等)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の完成年度を1年後に控え、当初目論んでいた1)パースペクトの組織化の実態と分布条件の解明、2)特に1文中で生じるパースペクト・シフトの個別的な意味特性の記述と抽出、3)個々のデータに通底する普遍的な意味特徴の特定、4)現象全体を説明し得る包括的な意味論の構築の4項目中、1)-3)の3項目については、ほぼ解明することができたことから(2)と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
上述のとおり、当初、目論んだ4項目中、3項目について解明のめどがたっている。しかしながら、依然として、4)の現象全体を説明し得る包括的な意味論の構築、という課題が未解決の問題として残されている。代名詞などのindexicalについては多くの先行研究があり、様々な分析の枠組が提案されている。しかしながら、indexical以外のパースペクト・シフト現象については先行研究が少ない。indexicalについての分析をそのまま適用できるかどうかは明らかではなく、検証しなければならない課題は多いと言える。そこで、最終年度であることから、来年度はこの問題に焦点を絞って、現象を説明し得る普遍的な分析の枠組みと理論の構築を目指したい。
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