最終年度の今年度は、埋め込み節での時制形式の選択とその解釈も文脈やパ-スペクトと無関係ではないとの視座から、活動動詞ル形を主動詞とするカラ節・ノデ節事象に(主節時に後続するという主節時制のスコ-プ内に留まる<相対的テンス>ではなく)主節事象に先行する、という<埋め込み節事象先行型>解釈 が生じる現象に焦点をあて、その背後にある仕組みの解明に当たった。方法として、日本語には授受動詞や混合話法のように文の途中でパ-スペクトがシフトし、複数のパ-スペクトが交差する現象が多くあることから、それらの現象との類似に注目した。そして、<埋め込み節事象先行型>時制解釈が、話者自身を情報源(元発話者)とする、話者自身のパ-スペクトに基づいた記述内容Pをcharacterとするカラ節・ノデ節に限られる という分布条件を有することを示して、その背後に、活動動詞ル形が、カラ節・ノデ節に「命題概念」を導入するトリガ-として内包的文脈を創設し、カラ節・ノデ節と対立関係にあるパ-スペクトを伴立することにより、Pと~Pという二重写しのパ-スペクトが作り出される、という仕組みがあることを明らかにした。また、この現象を分析するための方法として、従来のSOT規則やModal Subordinationでは不十分であることを示して、新たに、カラ節・ノデ節の記述内容の直接体験者や観察者を主語とする主観的命題態度動詞(subjective attitude verb: SAV)を仮定し、SAVとカラ節/ノデ節のル形は呼応すると見なすことにより、<埋め込み節事象先行型ル形+カラ節/ノデ節>の分布条件や独自の時制解釈、さらには、「非難」のニュアンスをもつという意味特性をうまく説明できることを示した。
|