本研究は、発話のもつ音韻論上の構造である韻律構造のうち、専ら曲線音調の分布によって境界表示されると分析できる、日本語と南アジア諸言語について、自発音声コーパスデータを収集・分析し、韻律構造の文字データ今の記号付与によって、文字化できない韻律情報を視覚的に表示する方法を検討し、諸方言・言語のデータを音声データに文字情報を含む補助的視覚データを加えて公開する方法を開発することを意図したものである。 平成21年度は、日本語九州方言の自発音声コーパスである鹿児島東立図書館方言ライブラリの音声資料のうち、変異幅の大きい主として薩摩半島西部・島嶼部の方言データを分析し、これらの方言における音韻句の境界表示と、音韻語の境界表示のそれぞれにおける曲線音調の方言間比較を行ない、その結果について雑誌論文にまとめた。論文では、これらの系統関係のある諸方言のうち、鹿児島県本土における変異が主として音韻句の境界表示の変化によるものであるという結論を得たほか、島嶼部も含め、韻律構造解釈において、連続音声資料の有用性と、このような資料を用いることにより明らかになる韻律構造の重要な特徴について広く注意を喚起した。 インド諸言語については、テルグ語のいくつかの方言において複合的数詞の韻律構造を中心とした資料収集と分析を行い、その成果をインドの国内言語学会において発表し、特に日本語との比較で興味深い諸点について報告して今後の研究への協力を求めた。
|