本研究は、事前に入手された予定稿などがなく、ぶっつけで行われた同時通訳の記録を分析することにより、発話理解における概念化のプロセス、特に諸概念が複合されるプロセスを明示化することを目的とする。 本年度は、平成21~22年度に収集した同時通訳の音声記録を文字化した。作業補助者の協力により、総計3時間12分に及ぶ音声記録の文書化を完成させた。作業は、起点言語による原発話(英語および日本語)と目標言語によるその訳出(日本語および英語)の音声記録を書き起こし、それらを時間軸に沿って並記し、訳出のタイミングを表す形式に整えることであった。記録の正確さを確保するために、訳出に関わる背景知識についても資料を収集し、訳出分析に活用した。 上記の作業を通して文書化された通訳記録と元の音声記録に基づき、訳出に現れる諸特徴を抽出、分類し、観察される特徴の一貫性、非偶発性などを確認した上で、通訳者が概念的レベルで処理していると考えられる現象を引き起こす要因を分析している。資料としては、英語から日本語に同時通訳されたものと、日本語から英語の方向のものとがある。それぞれに固有の現象もあるが、概念的複合の点では共通する興味深い現象も観察されている。それらは、言語表現レベルにおける起点言語と目標言語の対応関係だけでは説明できない現象であると言える。このような現象を解明しようとする点に本研究の大きな意義がある。
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