研究概要 |
本研究では、マルチチャンネル調音データベースから得られたEMA・EPG・音響データに基づき、英語における有声歯茎側面接近音/1/の調音動作における韻律制御、特に、Lの母音化の観測と分析を遂行し、音節頭位・末位の/1/における調音動作との関係を考察した。英語/1/は、音節内の位置によって,協調タイミングが独特に異なることが知られている。音節頭位の(明るい)/1/では,舌尖⇒舌背の順に調音運動が実現されるが,音節末位の(暗い)/1/では,舌背⇒舌尖の順に調音運動が実現される。これら2種類のタイミングパタンは,様々な先行研究によって実証されているが、Lの母音化については、その調音運動の実態は充分に研究されていない。 本研究における音節頭位・末位の/1/に関する分析結果は、先行研究の結果を裏付けるものであった。そして、Lの母音化に関する主な結果は、次の5点にまとめられる:(1)子音が後続する/1C/連続において典型的に現れ、後続子音が無い場合には母音化しない傾向がある;(2)舌尖を下降させる調音動作だけではなく、(3)舌背を後退させる調音動作が強化される:(4)両唇の圧搾を伴い、(5)顎の調音動作の速度が音節頭位・末位の/1/よりも速くなる。このような実験結果は、Lの母音化が音節末位における舌尖の調音動作の弱化と、その調音タイミングの遅れによって自動的に生ずる現象ではないことを示唆している。また、調音動作の韻律制御によってのみ説明できるとする従来の見方(調音音韻論)を見直す必要性も示している。英語/1/に代表される複合調音に関する理解を深め、その韻律制御の機能や音声知覚機構との関係を解明するために、現在、音響的特徴の分析に着手している。これは、Lの母音化の実態を明らかにするとともに、その調音動作の韻律制御と聴覚的側面、更には、調音とその音響効果における変動性・普遍性の問題の解明に貢献するものである。
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