本研究は、音響上の実測値と3言語の母語話者が知覚する音の間の距離との関係を比較検討することを試みたものである。母音、子音ともに3言語の母語話者の特徴が顕著に表れた実験結果が得られた。子音の知覚実験結果の概要は以下の通りである。1)韓国語話者は、有気音(英語の無声閉鎖音、韓国語の激音)と日本語の無声閉鎖音の違いに敏感である。2)韓国語話者は、英語の有声閉鎖音と日本語の有声閉鎖音の違いにも他の言語の話者よりも敏感である。3)韓国語話者は、英語の有声閉鎖音と韓国語の平音を他の言語の母語話者よりも近い音と判定したが、英語と日本語話者は英語の有声閉鎖音と韓国語の濃音とを近い音と判定した。4)韓国語話者は無声歯茎摩擦音の音声的な違いに、他の言語の母語話者よりも敏感で、英語の/s/と韓国語の濃音の/s*/が平音の/s/よりも有意に近い音と判定した。音響分析の結果、摩擦の持続時間、摩擦の後の帯気の持続時間、後続の母音への移行時のFl周波数などにおいて英語の/s/と韓国語の濃音/s*/が近いことがわかった。5)英語の/r/と日本語のラ行音、韓国語の/r/との音声的な違いには英語話者の方が、日本語話者と韓国語話者よりも敏感であった。6)音声的には必ずしも近くはないが、英語の/f/と日本語のフの子音、英語の/f/と韓国語の/p□/は、それぞれ日本語話者、韓国語話者の方が英語話者よりも近い音と判定した。 母音の知覚に関しては以下のような母語による違いが見られた。英語と日本語の母音の知覚上の距離については、どの言語の話者も英語の/i/と日本語の「イー」、英語の/u/と日本語の「ウー」が近い母音と判定した。日本語話者のみ日本語の母音の長短による英語の母音との知覚上の距離の判定に有意な差が見られた。英語と韓国語の母音に関しては、特徴的な傾向として英語話者は英語の/∪/と韓国語/□/を近い母音と判定した一方で、韓国語話者は英語の/〓/と韓国語の/〓/が特に似ていない母音とした。
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