研究課題/領域番号 |
21520425
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
清水 誠 北海道大学, 文学研究科, 教授 (40162713)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | フリジア語 / 英語 / ドイツ語 |
研究概要 |
研究4年目に当たる今年度は、以下の表に記したとおり、著書2冊 (単著1冊、共著1冊)、論文3編 (いずれも単著) を発表し、研究発表1件を行った。いずれもゲルマン語歴史比較言語学とゲルマン語類型論にかんするものである。 3編の論文の中で、まず、論文1「ゲルマン語の歴史と構造 (5)-現代ゲルマン諸語-」は、前年度に発表した「ゲルマン語の歴史と構造 (1)~(4)」の最後の続編である。近世以降のゲルマン諸語の発達、社会言語学的現状に加えて、北ゲルマン語に属する主要4言語 (スウェーデン語、デンマーク語、ノルウェー語ブークモール、アイスランド語) と英語を除く西ゲルマン語に属する主要4言語 (ドイツ語、オランダ語、西フリジア語、アフリカーンス語) の合計8言語の音韻と正書法の特徴を論じた。論文2「ゲルマン語類型論から見たドイツ語の語順変化 (1)―名詞句成分―」は、ドイツ語の語順の発達を他のゲルマン諸語との関連から考察したもので、冠詞・形容詞・属格と名詞の語順、および冠飾句を扱った。論文3「ゲルマン語形容詞強・弱変化の非文法化」は、日本歴史言語学会からの依頼論文であり、印欧語としてのゲルマン語独自の特徴とされる形容詞強・弱変化の二重構造が中世以降、現代ゲルマン諸語に至るまでに被った非文法化の過程を考察したものである。論文1は、昨年度までに発表した4編の先行論文とともに、大幅な加筆・縮小を加えて、『ゲルマン語入門』(三省堂、単著) として出版した。また、論文2は、分量的に大幅に縮小して『講座ドイツ語学第2巻ドイツ語の歴史論』(ひつじ書房、共著) の第2章「語順の変遷―ゲルマン語類型論の視点から―」の前半部分に収録し、出版した。研究発表「ドイツ語とゲルマン語の枠構造をめぐって」(京都ドイツ語学研究会) は、論文3の続編となるべき動詞句と文の語順の発達を扱ったものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、申請者のフリジア語研究の蓄積をゲルマン語全体の研究に関連づけ、マイナーな周辺的言語の記述がメジャーな中心的言語の研究に貢献し得ることを示し、大国の言語に偏りがちな近年の言語学研究の動向にたいして別の可能性を提示しつつ、併せて、フリジア語研究の継承・普及のためにフリジア語へのアクセスを容易にすることにある。この目標にたいして、これまでの4年間で、論文10編 (すべて単著)、著書7冊 (単著2冊、共著5冊)、書評1編を発表している。これは分量的に見ても、十分な研究成果として評価できるだろう。中心となる言語はフリジア語、ドイツ語、オランダ語、アイスランド語の4言語に及んでおり、ゲルマン語全体を視野に入れた考察に結びつけたものが大半を占める。これによって、フリジア語に特徴的な言語現象の分析を通じて、ドイツ語・英語研究では周辺的で看過されてきた現象にたいして、ゲルマン語全体の考察から新しい知見と理論的意義付けを与える論考を発表することに成功しているといえる。また、社会的還元にかんしても、北フリジア語の概要をドイツ・北フリジア語文化研究所 (Nordfriisk Instituut) の協力を得て、母語話者による録音テキストを含む一般読者向けの概説書 (白水社、共著) として刊行している。これによって、申請者による西フリジア語の文法書やオランダ語の入門書の執筆経験を生かして、学習可能なフリジア語の入門的解説を発表し、研究者や一般人の関心を高めることがある程度できていると判断される。地方自治体 (静岡県駿東郡清水町) の市民文化講座の席上で、研究テーマに関連する一般人向けの招待講演を行うなどの努力も傾けてきた。学会運営の点でも、2011年に日本歴史言語学会を発起人の一人として設立し、同学会の理事として尽力し、ゲルマン語学の歴史的研究の活性化にも腐心している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる今年度は、さらに研究業績の充実を目指し、次の研究につなげる努力を傾注したい。また、これまでの研究業績の弱点として、欧文による国際誌への投稿が11編の論文・書評中、2点にとどまることが挙げられる。これを補う意味からも、海外で刊行される欧文著書への論文掲載を目指して努力したい。具体的には、上記の著書『ゲルマン語入門』(三省堂、単著) において、紙面の制約と編集方針のために割愛せざるを得なかった現代ゲルマン諸語を中心とする音韻以外の文法現象について、下記の2つのテーマを扱う予定である。 まず、論文2「ゲルマン語類型論から見たドイツ語の語順変化 (1)―名詞句成分―」の続編を発表する。これについては、紙面の制約で十分に論じられなかった『講座ドイツ語学第2巻ドイツ語の歴史論』(ひつじ書房、共著) 所収の「語順の変遷―ゲルマン語類型論の視点から―」の後半部分、および上記の研究発表「ドイツ語とゲルマン語の枠構造をめぐって」(京都ドイツ語学研究会)と関連させて論文にする予定である。また、西ゲルマン諸語に共通する接頭辞動詞の中で、例外的に高い生産性を示す西フリジア語の動詞接頭辞 be- の存在理由について、中高ドイツ語の動詞接頭辞 ge- との類似性に注目しつつ、ゲルマン語の歴史的発達と類型論的特徴に照らした広い視野からの考察を行いたい。申請者はフリジア語研究の中心機関であるドイツ・キール大学、オランダ・フローニンゲン大学およびアムステルダム大学が共同で刊行している国際的なフリジア語学文学研究叢書 Estrikken から論文投稿を依頼されており、同書にドイツ語による論文としてまとめる計画である。 なお、本研究の一部を日本独文学会が授与している日本独文学会賞への候補作として応募し、本研究の成果が学会から広く認知されることを目指したいと考えている。
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