今年度の研究テーマは接頭辞動詞である。西フリジア語の動詞接頭辞 be- は他の西ゲルマン諸語と大きく異なっており、ここでは中高ドイツ語の動詞接頭辞 ge- との類似性に注目した。そして、文法範疇としてのアスペクトを動詞の語形変化において、祖語の段階で失ったゲルマン語がその代替手段を発達させたという問題に関連させた。古ゲルマン諸語は動詞接頭辞によって語彙的レベルで完了アスペクトを表示していたと考えられるが、迂言形としての完了形の発達で動詞接頭辞の機能はアスペクトの表示から他の文法的意味に移行し、話法の表現手段にもなったと考えられる。本研究では、西フリジア語は ge-/er-/be- の中で be- をその代表的手段として発達させたと推定し、その過程を歴史言語学的・類型論的に考察した。具体的成果はドイツ語による論文 Die be-Verben im Westerlauwersschen Friesisch として、フリジア語学の国際的学術誌/研究叢書 Estrikken 94 に発表し、誌面の制約で割愛した部分を含めて「西フリジア語の接頭辞動詞と be-動詞について」『北海道大学文学研究科紀要140号』にまとめた。 また、京都ドイツ語学研究会での研究発表「ドイツ語とゲルマン語の枠構造をめぐって」(2012年12月) の概要を同研究会の会誌 Sprachwissenschaft Kyoto 12 に発表した。日本アイスランド学会でも「ゲルマン語類型論から見たアイスランド語の音韻と正書法」と題する公開講演を行った。 さらに、本科研費の援助による著書『ゲルマン語入門』(三省堂 2012) によって第11回日本独文学会賞を受賞した。同賞の受賞は第5回 (2008) に続いて2度目となる。
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