ドイツ語やスラブ諸語・日本語などの言語類型論研究の中でアスペクトを扱ったこれまでの論考を比較してみると、「完了相」対「未完了相」の対立と並び、「開始相」「終結相」など視点の置き方による分類も多く論じられていることがわかる。これらをまとめることにより、アスペクト表現の変化を言語類型の変化と位置づけることには十分可能性があると確認できた。しかしこれを実証的な研究の成果としてまとめるためには、さらに多くのデータを集めることが必要であることも明らかになった。 古高ドイツ語ではOtfds Evangelienbuch、中高ドイツ語についてはNibelungenhed、初期新高ドイツ語についてはWolkensteinのMinnesangなどを中心に、書籍資料なども参考にしながら、開始相表現の用例収集を進めた。また既存のデータベースを利用して用例を集めることもできた。ベルリン(ドイツ)のフンボルト大学を中心として作成作業中のドイツ語史資料データベースは、このような研究には特に有効であることが確認できたが、このデータベースは未完成なので、この研究には十分に利用することはできなかった。 ドイツ語の開始相表現としてはbeginnen・werden・kommenの3つの動詞による動詞句が重要な役割を演じていたが、anhebenなど接辞により開始相を表現する動詞についても、歴史的には多く用いられていた。gehenについては、kommenとは対照的に、ドイツ語では開始相表現としての用例が少ないが、その理由を言語類型論的観点から説明する可能性がある。 以上の研究について、日本独文学会語学ゼミナールでその一部を発表し、国内外の研究者と意見交換することができた。現在、これまでの成果を論文にまとめる作業中である。
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