本年度は始めに台湾中央研究院傅斯年図書館に所蔵されているイ(ロロ)文書の所蔵状況の確認作業を行った。当該図書館には目録記号により273点のイ(ロロ)文書が所蔵されている。しかし、確認をしてみると、そのうち9点が漢文の文書、1点がタイ文書、18点がナシ族のトンパ文書であり、イ(ロロ)文書は245点であることが判明した。このうち50点は損傷が激しく閲覧できなかった。時間的な制約もあり、主に書名不明の文書を優先して閲覧と複写を行い、159点について複写した。当図書館のイ(ロロ)文書の大半は当研究院の馬学良氏が1940年代に収集した可能性があり、その経緯を精査するために、馬学良氏に関する公文書も閲覧し、必要な個所を複写した。 中国・中央民族大学黄建明氏や上海大学巫達氏らとともにその書かれた地域の特定作業を行った。そして約30点が雲南省紅河州近辺の南部方言区の文書であり、約50点が四川省涼山州の北部方言区の文書であることが判明した。このうちの1点は「ヌオテジ」という創世神話の文書であることも分かった。それ以外の大半の文書が雲南省禄勧・武定県の東部方言区の文書であることも判明し、2点のイ(ロロ)文字拓本と漢文拓本は雲南省禄勧県の「鐫字崖碑」の拓本であることも分かった。 これらの文書の複写を雲南・四川に持ち込み、それぞれ各地のイ文字の専門家をインフォーマントとして読み込み、分析作業に入った。四川省涼山州のモソツホ氏、雲南省昆明市の張仲仁氏、紅河州の〓龍貴氏をインフォーマントとして作業に入ったのだが、その作業はやや難航しており、現時点で文書の書名が判明したのは「ヌオテジ」などごく少数だけだった。来年度は文書の精読に力を注ぎ、3か所のインフォーマントと連携して、これらの文書の内容、特に名称さえ分からない文書について解読を進め、解題をまとめる計画である。
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