台湾中央研究院傅斯年図書館に所蔵されているイ(ロロ)文書245点のうち、昨年度複写した159点の文書の解読分析作業に入った。このうち約80点が雲南省禄勧・武定県の東部方言区の文書であり、約20点が雲南省紅河州近辺の南部方言区の文書であり、約50点が四川省涼山州の北部方言区の文書であることから、それぞれの地域でイ(ロロ)文書に精通しているインフォーマントとともにその書名や内容について検討した。 東部方言区の文書は、雲南省昆明の雲南民族出版社において張仲仁氏と解読分析作業を行った。これにより80点の文書の書名とその書かれている内容が判明し、これらの多くがイ族の祭司であるピモが各種儀礼の際に使用する経典であることが分かった。南部方言区の文書に関しては、雲南省蒙自の紅河州民族研所において龍〓貴氏と解読分析作業を進めた。これにより20点の文書の書名とその書かれている内容が判明した。これらの文書のなかには漢族の民間説話など漢文の文書からの翻訳およびイ族的解釈による要約などのものも少なくなかった。この地域の文書には同治年間の木刻本があり、弧本であることが確認され、現在雲南省でも存在しない貴重な資料であることが判明した。また、これらの文書はその体裁から、紅河県楽育郷で書かれたものと同定された。 北部方言区の文書は、四川省西昌の涼山州言語文字委員会においてモソツホ氏と解読分析作業を進めた。これにより54点の文書の書名とその書かれている内容が判明した。そのほとんどが彜族の祭司であるピモが儀礼の際に使用する経典であることが分かった。 以上の154点の書名と内容が判明した文書に関しては、漢文の解題を作成した。 次年度はこの解題を取りまとめ、日本語にも翻訳し、これらイ(ロロ)文書の来歴を考察し、『台湾中央研究院所蔵イ(ロロ)文書解題集(仮称)』を編集し、出版する予定である。
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