本研究の目的は、フィンランド語動詞の項構造(argument structure)を記述し、項の増減を伴う統語現象に着目して、動詞の項構造の統語的な実現過程(syntactic realization)を考察することにより、機能主義的な立場から項構造の統語的な実現過程に関する一般的な説明モデルを提案することにある。そのためには、研究代表者がこれまで行ってきたフィンランド語に関する研究成果を踏まえながらも、他の言語の同様の事象に学ぶことも欠かせない。 そこで、本年度は、(1)本研究の研究課題である「動詞項構造」と密接な関わりを持つ「格」をテーマにしたフィンランド言語学会主催のシンポジウム(8月27日-29目)に参加し、'The double nominative marking in the Finnish language'と題した研究発表を行うとともに、他の参加者と意見交換を行った。また、(2)各言語の動詞項構造に関わる現象を学びあう場として「動詞項構造研究会」を発足させ、同研究会を二度にわたって開催し、一回目(12月20日)には、研究代表者、佐々木冠(札幌学院大学教授)、長崎郁(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所特任研究員)の三名が、二回目(3月8目)には、中山俊秀(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所准教授)、千葉庄寿(麗澤大学准教授)、大宮康一(名古屋大学博士課程後期課程)の三名が講演および研究報告を行い、他の出席者も交えて討論を行った。さらに、(3)フィンランド語の使役構文の項構造に関する今年度の研究成果を'The Causative Constructionsin the Finnish Language'と題した論文にまとめた。
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