本研究の目的は、フィンランド語動詞の項構造(argument structure)を記述し、項の増減を伴う統語現象に着目して、動詞の項構造の統語的な実現過程(syntactic realization)を考察することにより、機能主義的な立場から項構造の統語的な実現過程に関する一般的な説明モデルを提案することにある。そのためには、研究代表者がこれまで行ってきたフィンランド語に関する研究成果を踏まえながらも、他の言語の同様の事象に学ぶことも欠かせない。 そこで、本年度は、(1)8月9日~14日にかけてハンガリーのピリシチャバで開催された第11回国際フィン・ウゴル学会議に参加し、'Case Marking and Word Order in the Finnish language'と題した研究発表を行うとともに、他の参加者と意見交換を行った。また、研究協力者の櫻井映子(東京外国語大学非常勤講師)は、9月2日~5日にかけてリトアニアのビリニュスで開催された第43回欧州言語学会に参加し、参加者と意見交換を行った。(2)各言語の動詞項構造に関わる現象を学びあう場として、昨年度に発足させた「動詞項構造研究会」を二度にわたって開催し、一回目(9月19日)には、研究協力者である櫻井映子の他、江畑冬生(日本学術振興会特別研究員)、鈴木建次郎(愛知教育大学非常勤講師)の三名が、二回目(3月13日)には、沈力(同志社大学教授)、入江浩司(金沢大学准教授)、白明学(名古屋大学助教)の三名が講演および研究報告を行い、他の出席者も交えて討論を行った。(3)フィンランド語の使役構文の項構造に関する今年度の研究成果を"Deficient" Case Marking System of the Finnish Language'と題した論文にまとめた。 なお、本年度の研究成果の取りまとめは3月中に実施する予定であったが、東日本大震災の発生に伴って研究協力者と打ち合わせることが不可能となったとため、研究の取りまとめを次年度に繰り越した。
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