研究概要 |
本研究は日本・朝鮮資料の体系的収集とデータの電子化を基礎として,その分析を通じて諸資料の通観的記述を行うことにある。21年度は,実施計画に従い,韓国や日本の諸機関で文献の調査を行ない,収集資料のデジタル化を行った。以下では,21年度の特に重要な成果と研究作業を挙げる。 1) 韓国成均館大学校尊敬閣所蔵『姜睡隠看羊録』国尽の欄外に記された日本国名の発見と考察 『姜睡隠看羊録』(姜〓 1656年序)については,姜〓が抑留されていた時の日本について記した文献として良く知られているが,言語史の資料として言及されたことは全くなかった。このたび韓国で板本を閲覧したところ欄外にハングルで印刷された日本国名61例があることが分った。例えば,越中(エッチュウ)〓〓播磨(ハリマ)〓〓〓等。ハングルを分析した結果,前鼻音化・濁音化の〓〓の存在,ハ〓の表記,oとuの交替などが指摘され,日本語音韻史への寄与が明らかになった。この国尽は『捷解新語』(巻9)の国尽とかなり一致し,易林本系統からの引用と見られる。本書はハングル表記の誤刻,欠損がかなりある。今後より良い板本を調査する予定である。 2) 日本・朝鮮資料に見られる朝鮮語・日本語例の抽出とデータ入力 『日本書紀』には,当時の古代朝鮮語と見られる多くの固有名などの表記が見られるが,厳密な言語史分析は未開拓である。今回,『日本書紀』所収の古代朝鮮語例を抽出し,1000例を入力した(部分的な重複あり)。また,『朝鮮王朝実録』所収の中世日本語(朝鮮漢字音表記)の用例採取は,すでに14世紀末から15世紀前半までが終わっているが,21年度は15世紀後半から燕山君8年(150I)の50年分の用例抽出を行い,入力を完了した。さらに『海東諸国紀』(1471年)の日本語(朝鮮漢字音表記)についても21年度に抽出と入力を完了した。このデータに基づいて文献ごとの用字法について調査した。
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