本年度の主要な目標は二点、(1)びん東区方言祖語、声母・声調・韻母の再構、および(2)データのチェック、補足を目的とした方言調査、であった。 韻母の再構については-m/-p韻尾韻母の再構から始めた。このタイプの韻母の再構はもっぱら咸村方言、九都方言等広義の寧徳方言にもとづいて行われる。互いにコミュニケーションが可能で、地理的にも隣接して分布している方言であるにもかかわらず規則的な対応を得ることが出来ないケースが多く現れた。現地調査で再チェックも行ったが、やはりこれらの不規則的対応を解消することが出来なかった。この部分の研究成果については日本中国語学会第60回全国大会で発表した。-n/-t韻尾韻母の再構にも着手したが。この部分は完成にいたらなかった。-m/-p韻尾韻母以上に多くの不規則的対応が現れる。 古田方言についても調査を継続し、調査自体は終了した。韻尾以外の部分については、びん東区方言祖語をほぼそのまま保存していると考えられる方言であることから、独立した調査報告書を作成する必要があり、その作業も継続した。平成23年度内の正式出版のめどがある程度立つ段階にいたっている。この方言の介音の長短がびん東区方言の"変韻"現象に密接に関連していることを見いだしたことは、韻母変化に関する音声学的説明が可能となるという点で本研究にとっては重要な発見であった。 なお第八届台湾語言及其教学国際学術研討会に招待されたので昨年度行った二重、三重母音韻母の部分を若干改訂し発表した。(637字)
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