(1)「びん東区方言祖語、声母・声調・韻母の再構」と(2)「データのチェック、補足を目的とした方言調査」が今年度の「研究の目的」であった。 (2)については、音節主母音に関してもっともびん東区方言祖語に近い状態を保存していると予想され、それ故そのデータが必要不可欠な古田方言を中心に調査研究を展開した。びん東区方言音韻史の面できわめて重要な方言であり、また調査が順調にすすみ質のよいデータが収集できたことから、古田方言の調査報告書を海外研究協力者の陳澤平福建師範大学教授と共同執筆し出版した。古田(大橋)方言の韻母体系が明末清初の福州方言を反映するとされる『戚林八音』と音類、音価ともほぼ完全に一致することを見いだしたのは、重要な成果と言えると思う。 (1)については、音節末韻尾の保存状態がよい寧徳方言の祖語を再構することが、びん東区方言祖語の再構に必要不可欠と考えているので、まず寧徳方言の祖語を再構した。同じ調類がある場合には音節主母音の舌位をさげ、ある場合には舌位をあげる、この一見不可解な現象に介音の長短が関わっていることを見いだしたことなどは重要な成果だったと思う。これまでまったく注意を向けられることのなかった介音の長短、この特徴からびん東区諸方言音韻史を再考する必要があろう。研究のこの部分に多くの時間をとられ、びん東区方言祖語の再構が時間切れとなってしまった。ただ、古田方言はその陰声韻をほぼ忠実に保存していると考えられ、その点は『びん東区古田方言研究』に記すことができた。 今年度が最終年度である。びん東区方言祖語の再構という当初の研究目的を研究期間中に達成できなかったことを遺憾とする。しかしながら、びん東区方言祖語の再構に必要なデータは完全に網羅することができたので、平成25年度内の完成を目標に研究を継続したい。
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