研究課題/領域番号 |
21520443
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
板橋 義三 九州大学, 大学院・芸術工学研究院, 教授 (50212981)
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キーワード | 北奥羽方言 / アイヌ語のアクセント / 方言アクセント型の変化 / 基層 / 危機に瀕した方言 |
研究概要 |
本年度は青森県沿海方言に関する詳細な語彙、アクセントの調査を行った。予定とは異なり、1か所増やし3か所の各地域3名とし、その土地生え抜きの80歳以上の古老を紹介してもらい、合計9名の協力者から了承を得た後、アクセント調査を始めた。しかしながら、調査日の当日には、急に病気になった協力者がいたため、その1名分の調査ができなくなり、最終的に調査ができたのは8名であった。調査した孤立した語と文中のアクセント型の分析結果を報告書の一部としてまとめ、国際学会の東アジア日本語教育・日本文化研究学会のパリ大会で昨年11月初旬に口頭発表を行った。しかし、論文としてもほぼまとまっていたが、現時点ではまだ投稿していない。 調査地域とその期間は、(1)下北郡大畑町(平成23年8月29日~30日)、(2)下北郡風間浦村(平成23年8月31日~9月1日)、(3)下北郡大間町(平成23年9月2日~3日)である。この下北の地域全体が津軽海峡に面しており、歴史的には奥羽地方の南部との接触がほとんどなく、対岸の北海道は目と鼻の先であり、舟による北海道との往来が頻繁にあったと推測される地域である。従来、この地域は多くのアイヌ人が住んでいた地域であるため、このあたりの方言はアイヌ語の影響が非常に大きかったと見られる。このあたりの方言は全く記録がないため、今回の調査により得られたデータは大変貴重なものとなっている。また、今回の調査ではアイヌ語のアクセント型の変化、またはその影響力の分布も見えてくる可能性がある。 調査した語彙リストの基礎語彙は1拍語から5拍語まで200項目程度(名詞、動詞、形容詞とそれぞれの品詞の単独形と接続形)のアクセントだけに焦点をあわせ、高感度マイクで収録した。次に語彙項目を発音してもらった後に、対話や面談を行い、同様に高感度マイクで録音し、文レベルに渡り調査した。今回、協力者は役場、特に教育委員会にお願いし、3日間に渡ってアクセント、談話の細部まで収録、録音した。現段階ではこの基礎語彙200語と自由談話の分析を行っており、まだ十分な結果が出ていないが、アイヌ語の影響力の大きさが分かるとともに、その分布が明確になると考えられる。その成果はこの秋の国内学会で発表する予定にしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度行った調査を基にピッチ曲線で示したデータを作成した。今年度のデータを基盤したものと、それ以前のデータも総合した調査結果から、23年秋に口頭発表を行っており、全体的なまとめとした。
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今後の研究の推進方策 |
予定としては今年度の23年度と来年度の24年度で著書として著わす章立て等を具体的にまとめ、その章立てに従って内容をまとめておくように、すすめている。 実際のフィールド調査における問題点は協力者が高齢であるため、予定した調査日に病気になるなどして、調査ができなくなったりすることがあり、今回も1件あった。これが最も大きな障害である。これに対処する有効な方法はなく、しいていうなら、計画時点から多めに協力者をその地域の教育委員会に依頼しておくことぐらいであるが、これにも限度がある。それはこの調査では協力者が80代という条件があり、非常に高齢であるため、協力者の人数が少ない上に、協力してもらえる健康な高齢者がさらに少なくなることである。そのような条件を満たす高齢者を依頼すること自体が非常にむずかしく、これまでもその地域の教育委員会が何度も協力者を変更してきた経緯がある。 最終年度の25年度にもフィールド調査をする予定にしていたが、実際には著書として提示することになっているため、23年度と24年度は調査地域をそれぞれ1か所増やし、25年度分を24年度までに調査し終えるように、予定を変更している。
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