研究概要 |
日本人初級および上級英語学習者,また英語母語話者のメンタルレキシコン(心内辞書:mentallexicon)内のクラスタリング構造の類似点および相違点を解明することに取り組んだ。特に,ベースラインデータ抽出のために課した上級レベルの英語学習者および英語母語話者(各30名)に対する3種類の単語仕分け課題(word sorting tasks:それぞれ,高頻度の動詞,形容詞および名詞からなる50個の英単語を使用)を,初級レベルの英語学習者(大学1年生30名)に課し,実験結果を3群間で比較・解析した。 課題終了時間に関して,初級学習者では3つの仕分け課題間に有意な差異は見られなかった。上級.学習者では,動詞仕分け課題において終了時間の違いが顕著で,動詞における習得すべき要素の多面性と複雑さがこのレベルの被験者では課題終了時間の違いに反映する可能性が高いと指摘できる。上級学習者および母語話者の両群では,形容詞仕分け課題において,他の課題よりも有意に長い課題終了時間を要した。これは,英語形容詞の特徴の一つである,反意語や同意語のペアやクラスターを基本とする構造が心内辞書に堅固に内在化されているこれらの被験者群では,心内辞書からの語彙情報の想起や単語間の関係性の認識において関与するためと推察される。実験に用いた形容詞にはこの関係性の見出せるもの(paired links)と見出せないもの(missing links)が混在しており,上級学習者および母語話者はこれらの関係性を探して課題に取り組み,このような関係性の存在しない動詞や名詞の仕分け課題よりも,結果的に形容詞仕分け課題終了に長い時間を要したと考えられる。 また,いずれの単語仕分け課題解析結果においても,被験者の英語習熟度,また母語であるか否かにより,各群間の心内辞書のクラスター構造は異なっていることが明らかとなり,特に上級学習者における母語(日本語)獲得時の英語からの借用語(loan words)の頑強な影響の存在が解明できた。
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