研究の最終年度にあたり、引き続き単語仕分け課題を用いて母語話者と第二言語話者の心内辞書内構造の異同解明に取り組んだ。さらに、日本人英語学習者の日英語心内辞書間の差異の解明に取り組んだ。 英語母語話者と日本人英語学習者(上級および中級レベル)の3群について、日本人にとって英語動詞は母語話者の心内辞書の構造に近似しにくい側面が少なからず存在することを明らかにした。群デンドログラムは3群間で質的構造が異なり、クラスター間の異同は4つのタイプに分類されることが判明した。上級話者では母語話者との類似性が高く中級話者では独自の(未発達の)要素を含む単語群、上級話者では母語話者との類似性が高く中級話者では両群と同様のクラスターを形成しつつも異なる語群と結び付いている単語群、中級話者と上級話者の同質性が高く母語話者の構造に近似しにくい単語群、また高い3群間の類似性はあるものの部分的に構造上の違いのある単語群の4つである。 さらに、日英語間で対応する訳語関係にある名詞を用いた仕分け課題により、日本人英語学習者の心内辞書内の意味的クラスタリング構造に関して、クラスター数、クラスターサイズ、また個人デンドログラムのばらつき度といった計量的比較について、2つの心内辞書に明確な差異はないことが判明した。しかし、群デンドログラムには2つの心内辞書間に有意な差異があり、また母語と第二言語の心内辞書間には質的にも異なる側面が多いことが確認できた。2つの意味領域からなる語群が日本語心内辞書では統合された1つの、英語では分離した2つのクラスターを形成しているもの、英語心内辞書内の方が類似度の高い単語間の関係を含むクラスター、逆に日本語の方が類似度の高い単語間の関係を含むクラスターなどの存在が明らかとなった。また、日英語間で訳語関係にある動詞については、英語心内辞書内のクラスター数が有意に小さいことがわかった。
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