今年度は、以後三年にわたる本研究のネットワーク作りのために、8月~9月に中国大連、瀋陽、長春、ハルビン、チチハルの省民族研究所(遼寧・吉林・黒竜江)などの研究機関並びに大学付属図書館(大連民族学院・吉林師範大学・東北師範大学・黒竜江大学)を歴訪し、我が国の満学研究の最新成果を紹介するとともに、各地の満洲語研究者と会い今後の研究交流を確認した。また、いくつかの省立図書館や大学付属図書館では、我が国にもたらされていない文献の所在を確認できたが、中でも東北師範大学付属図書館において、貴重書として修復中の満文書を実見する機会を得たことは、今後の研究のひとつの指針となった。 この他、遼寧省新賓満族自治区の満族小学と黒竜江省三家子村の満族小学で行われている現代満洲語の教育の実態に関し、教員へのインタビューで確認できたことは、次年度以降の北京及び新彊での民族語教育の実態調査の際、比較資料として有益と考える。 訪中以前の調査でも、今世紀に入って満洲語話者の高齢化により言語維持が極めて困難になっていることが知られたが、実際三家子村のような満族居住者が多いところでさえ日常的な満洲語口語の成立が厳しい実情を確認した。現地では初等教育の科目として行われている満洲語教授に用いる、小学教員自作のテキストを入手した。これらは日本への通常の商業ルートでは入手困難なものである。なお、新たなテキストの作成は、吉林師範大学のような大学レベルでも行われていることが分かった。 なお、吉林大学満族文化研究所では、言語以外の民族資料の展示を見学し、彼らの民族意識の高揚にこうした文物が重要であることを確認した。 なお、研究発表としては、直接本研究課題に関連するものは、満洲語文語の学会発表が1件だが、本研究着手以前から継続している、同じアルタイ諸語に属するモンゴル語と現代ウイグル語を対象とする論文1点と学会発表1件を得た。アジア諸語の研究地平を拡張させる方針を堅持し、本研究で満洲語に関して今後得られるであろう成果をも、いずれはこれら近隣のアジア諸語に適用することが期待できる。
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