本研究は、インターネット上の日本語を分析対象とし、マクロの視点から、従来の書き言葉、話し言葉との比較において、今日のオンライン日本語はどのような特徴を持つのかを量的に捉え、ミクロの視点からは、言語活動が行われる「オンラインコミュニティ」に焦点を置き、オンライン日本語の使用者はどのような対人言語行動を行っているのか、を質的な分析で明らかにすることを目的としている。 21年度に実施した研究実績として、まず書き言葉、話し言葉との対比におけるインターネット上の日本語の計量分析研究に関して報告する。オンライン日本語の範囲を、これまでの掲示板データに加えヤフー知恵袋におけるQ-Aデータ、及びケータイ上で執筆・講読される小説を分析対象に加えた。比較対象とする書き言葉についても、雑誌記事に加え、印刷・出版された小説、新聞社説及び学術論文を含めた。言語特徴の分布において、日常会話から成る話し言葉から、最も書き言葉的な学術論文に至るバリーションにおいて連続体を成すことが示され、ジャンル特有の特徴をも明らかにした。コーパス言語学的アプローチは、木を見て森を見ない、という視点ではなく、大局的視点からの比較で、日本語の全体像に迫る研究の先駆けとして重要な意義あるものと言える。 次に、「オンラインコミュニティ」研究について成果を述べる。投稿者のインポライトネスが、そのコミュニティにおける「適切さ」の基準に照らしその存続に直接影響することを示し、オンラインコミュニティ研究及びインポライトネス研究に貢献した。ポライトネス研究が対面会話を分析対象としている傾向が多い中、オンライン上でのポライトネス、インポライトネスを研究することで、言語行動に関する日本語の社会言語学的研究を新しい視点から深化した、という点で重要である。また蓄積のある英語圏での研究成果と比較したことで、理論的側面に日本語からの実証を含めた、という点でも意義ある研究である。
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