2009年度は、紀元前3千年紀後半のシュメール語文献資料から、不定詞を含む従属節と定動詞を含む関係節をそれぞれ収集・分析した。その結果、二つの発見があり、また共同研究の新たな展開もあった。 1、 不定詞を含む従属節は、目的を表すものとされ「~するために」と翻訳されるのが常であった。しかし、グデア・シリンダーBにおけるその用法を見ていくと、付加不定詞句(adjunct infinitive clauses)あるいは縮約関係詞節(reduced relative clauses)と解釈した方がよく、必ずしも目的表現ではないことが明らかになった。この分析結果は、7月の国際アッシリア学会で好意的に受け入れられた。 2、 定動詞を含む関係節の中、関係節を構成する名詞句が先行詞の直前に置かれる現象に関して、ペンシルヴァニア大学のベアトリス・サントリーニと議論した結果、一般言語学の統語論的見地から、それは再述代名詞を持たない左方転位(left dislocation)と解釈できるという結論に達した。これを、2010年4月16日シカゴ大学開催のワークショップ(Linguistic Method and Theory and the Languages of the Ancient Near East)で発表する。シュメール文法では、まだ語順の研究がほとんどなされていないので、この共著論文はその第一歩と言える。 3、 報告者がペンシルヴァニア大学勤務時代に着手し、その後中断していたシュメール語コーパスPenn Parsed Corpus of Sumerian(http://psd.museum.upenn.edu/ppcs/)を、Parsed Corpus of Sumerianと名称変更し、再開に向けて同大学のステイーヴ・ティニーと2010年5月に1週間中央大学で共同研究を行う。
|