2010年度は、1、関係節の語順と2、補文構造を中心に研究し、3、シュメール語のコーパス作りの作業も行った。 1. 関係節の語順:関係節を構成する名詞が先行詞の直前におかれる現象に関しては、申請者が独自に研究を進めていたが、ペンシルヴァニア大学言語学部のベアトリス・サントリーニと議論した結果、それは再述代名詞をもたない左方転位と結論づける事が可能であるとの結果に達し、共著論文を4月にシカゴ大学主催の古代中近東言語ワークショップで発表した。これは、古代言語の文法が、一般言語学の理論と方法論を用いる事によって解明され得る事の貴重な実例となると思う。 2. 補文構造:シュメール語にはどのような補文構造があるかという問題を考えるにあたって、独立した文書群として存在する裁判文書(ditillaテキスト)を選び、そこで最も多く使用される「言う」と「確認する」という動詞の補文構造を調べた。その結果、従来、独立した二つの文と解釈されて来たものが、意味論的見地から、前の文が後ろの文の補文になっている事(並列構文)を示した。これを論文にまとめ、マドリードで開催された国際学会で発表し、エレガントな解釈だという評を得た。 3. シュメール語コーパス:ペンシルヴァニア大学中近東文化言語学部のスティーヴ・ティニーと5月に中央大学でコーパス作りの作業を行い、問題点はあるものの、グデア・テキストのシリンダーA、シリンダーB、スタチューBを除く全テキストに形態・統語のタギングを行った。
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