法廷で使用される表現や用語を中心に、「日本語-英語間の等価性」というテーマの元、以下の内容で分析および実験を行った。 1)強盗傷害事件の被告人質問の場面の模擬法廷を行い、そこで使用される「殴る」「金を要求する」などの犯罪に直接かかわる語彙について、その英語訳の適正さをコーパスやコンコーダンスを用いた言語学的側面と法的意味の分析の両面から考察した。その結果、訳語選択によっては、伝わるニュアンスが言語学的にも法的にも全く誤ったものになる可能性が強く示唆された。そして、模擬法廷では実際に通訳人が、その違いを意識することなく安易に訳語選択をしていることも観察された。これは、量刑判断などに影響を及ぼす1つの要素であり、法廷通訳者に最適な訳語選択をさせるための教育の重要性を再認識させるものである。この成果については、7月にリバプールで行われた国際コーパス言語学会などで口頭発表するとともに、日本通訳翻訳学会の学会誌「通訳翻訳研究」9号に学術論文として掲載された。 2)最高裁の裁判員制度に関する広報ビデオ『評議』を取り上げ、そこに出てくる被告人や証人の証言の場面の模擬法廷を行い、訳出に問題があると思われる日本語表現について、日本語を母語とするプロの通訳者4名の通訳バージョンを分析した。その際、4名の英語母語話者に英語として自然な表現を出してもらい、比較の対象にした。その結果、「とても悔しくてみじめだった」「情にほだされる」などの非常に日本的な感情表現については、それを表す適切な英語訳がないなど、日本語-英語間の表現のギャップが浮き彫りになった。これについては、次年度に中間報告として発表するため、まとめの作業に入っている。
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