本年度は最終年度で、研究の成果の総まとめを行った、具体的には、以下である。 1)通訳人がその概念を間違って伝えやすい日本の法律用語を、様々な法廷記録や模擬法廷シナリオなどからリストアップし、現在、一般的に訳語として使用されている表現を各種辞書や翻訳データベースから抽出し、それらを基に、日本とアメリカの法律家とのディスカッションを通して、その正確な概念を検討するとともに、意味、法的意図、法的効果などの点で、最適な訳語表現を決定し、解説とともに対訳集の形に仕上げた。 2)通訳人にとって訳しにくいと考えられる一般表現(擬声語・擬態語、慣用表現、感情表現など)を多く盛り込んだシナリオを作成し、プロの通訳者を複数人入れた模擬法廷を行い、通訳データを収集した。そのデータと前年度までに取り行った模擬法廷から得られたデータを基に、日本人通訳者に典型的な訳語表現のパターンを抽出し、それらの妥当性について、日英両言語について母語話者であるプロの通訳者とともに検討し、最適な訳語表現を決定し、解説とともに対訳集の形に仕上げた。 上記2冊の対訳集を100部作成し、それを通訳者(会議通訳者および法廷通訳者)、法律家、言語学者、学生などに配布し、内容についてのアンケート調査を行い、それを取りまとめた。回答のうちの大多数が、対訳集で取り上げた表現が訳出困難であると認め、対訳集が非常に役立つと評価した。この結果により、日本語を軸にした、法廷通訳人にとって正しい訳出例を提供するための対訳集作成が、意義のある研究であったといえる。 今回は日本語-英語間で行ったが、この成果がが、日本語-他言語間での同様の研究のためのモデルとなることも期待できる。
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