本年度は研究の最終年度であったので、これまでの2年間の研究の総括と成果の取りまとめ、および、成果発表を行った。主な成果としては、論文1編、図書1冊、学会発表1件である。本研究は、ネパール東部で話されているチベット=ビルマ系言語であるメチェ語の再活性化のための文法記述と、メチェ語の使用を促進するため、子供に対して紙芝居を用いた普及活動の実証研究を行った。メチェ語の記述については、物語7編の分析をおこなった。特に、動詞に付加する様態、テンス、アスペクトなどの意味を添える接辞表現についての分析を進め、その体系をかなり明らかにすることができた。9月のヒマラヤ諸言語学会にて発表を行った。紙芝居を用いた活動について現地での報告を受けたが、いくつかの問題点が持ち上がった。一つは、文字化したメチェ語を声に出して読む習慣がないことからくる困難さ。一つには、子供たちのメチェ語の理解力がかなり悪いということ。前者については、訓練が必要であったが十分に行えなかったが、小冊子として配布することで、より読み手がプレッシャーなく子供に読み聞かせることができる。後者については、節々にネパール語で意味を補うことで可能だが、全体的に長くなり、こどもの集中力が切れることが分かった。また、メチェ語とボド語との語彙・音声の比較を行った成果を論文としてまとめ発表した。最後に、現地からの要請で22年度から進めたメチェ語辞書の作成を行った。現地の協力者との共同作業により6219見出し語のデータを集め、電子化したXML形式の語彙データを変換して組版し冊子体として完成させた。辞書は合計で240冊を作成し、3月27日に現地で無料配布を行った。編集にかなりの時間を割いたものの、まだ不備な点がある。しかし、これまでメチェ語の学習に供するものが全くなかったなかで、メチェ語の再活性化のために重要な礎となった。
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