本研究の目的は、韓国人日本語学習者と日本人韓国語学習者の両言語役割語の相互学習を支援しながら、活動の中で交わされる議論を分析し、その結果を日韓対照役割語研究の発展にフィードバックすることである。協同活動の場としてネット上のSNSコミュニティを利用してきたが、活動3年目を迎えて初年度から利用してきた会員制の民間SNSサイトであるfreeMLから、よりカスタマイズしたSNSコミュニティを目指してopenPNEにサーバーを変更し、「役割語」をテーマとした日韓・韓日翻訳活動を引き続き行ってきた。 今年度に活動の課題として注目したのは韓国ドラマの日本語訳であり、とりわけ注目して行った議論は、両言語による映像メディアの中での言語的特徴である。本活動から得られたアイディアをもとにした研究成果は、次の学会発表を通して報告している。(1)「日韓対照によるメディア言語研究へのアプローチ-映像メディアのジャンルによる言語的特徴を中心に」(第36回メディアとことば研究会)(2)「日韓対照の観点から見た映像メディアの言語的特徴」(2011世界日本語教育大会) 発表の内容を簡単にまとめると、日韓両言語による映像メディアを対照した結果、(1)日本語から韓国語への言語切り換えに、普通体から丁寧体への意図的な変形プロセスが見られる、(2)韓国語から日本語への言語切り換えに、意図的な「キャラクタの再創出」が観察される、という2点が明らかになったということである。ただし、この結果は断片的な例にもとつく一次的な結論に過ぎず、予備的研究として位置づけられる。今後は、これまでの「日韓対照役割語研究」の枠内で行ってきた対訳資料分析のノーハウを生かし、「日韓対照を通したメディア言語研究」に研究の枠を広げていきたいと考えている。
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