研究課題/領域番号 |
21520471
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
矢田 勉 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (20262058)
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キーワード | 書風 / 書体 / 書記習慣 / 書記範疇 / 表記史方法論 |
研究概要 |
本年度は第一に、前々年度・前年度に引き続き、東大寺文書第三部を中心として、東寺百合文書の経済文書類、仁和寺聖教類等の寺院所蔵の典籍文書類に関して、書風・書体に関する表記史的調査・分析を行った。前年度に、東大寺文書第三部9を資料として書記習慣(必ずしも規範的なものではないが、文字集団の一定範囲において行われていた書記のあり方)と書体・書風の連関性について、「表記史的現象としての表記習慣-東大寺文書の『着到』を例として-」として論文を公にしたが、今期はそれを発展させて国語表記史方法論の一部となし、著書『国語文字・表記史の研究』の一章とすることを得た。また、逆に、異なる書記範疇が交錯することによって新たな書記体が生み出されるメカニズムについても示唆を得るところがあり、「表記体間の干渉と新表記体の創出-候文の成立に対する仮名文書の関与について-」(『文学』12-3)としてまとめ得た。 一方、前年度に引き続き、本年度も出版隆盛時代における書体・書風の表記史的探求についての検討も行った。近世版本における文学ジャンル毎の書体・書風の一定の傾向と、書写における書体・書風の問題との関連(出版書体・書風が手書きの書体・書風に与える影響、また稿本の段階でどの程度出版書体・書風の措定が行われるか等)についての考究が表記史的記述には是非とも必要と考えられ、その準備的調査として式亭三馬関連資料及び高井蘭山関連資料を中心として、近世自筆稿本類の書風史的調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分析に必要なデータは確実に集積しつつあるが、より一層効率的な書風・書体のデータ化の手法について、またデータのより有効な分析手法については、更に考究を深めるべき余地がある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、ともすれば主観的な論述に陥りがちな書風・書体について、言語研究的客観性を保証したデータの蓄積および分析手法を開発することが主目的であるが、画像分析ツール等を用いてそれを計量化しようとする場合、どうしても人間の眼による主観的印象上での差異あるいは共通性に比して非常に小さい数値でしかそれが現れないことが明らかとなってきている。その言語史的分析に関する手法の確立が急務であり、次年度の喫緊の課題とする。
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