研究課題/領域番号 |
21520471
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
矢田 勉 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (20262058)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 書風 / 書体 / 表記規範 / 表記習慣 / 文字・表記史記述 |
研究概要 |
本年度は、前年度以前から継続して、①東大寺文書(第三部を中心とする)、東寺百合文書(売券・譲状等の経済文書類を中心とする)、仁和寺所蔵聖教類等、寺院所蔵の典籍文書類についての、書風・書体に関する表記史的調査、②近世自筆稿本類および同じ文学ジャンルに関わる書体・書風の表記史的検討(出版書体・書風が手書きの書体・書風に与える影響、また稿本の段階でどの程度出版書体・書風の措定が行われるか、そのことと漢字・仮名の使い分けや仮名遣等の表記習慣、表記規範の共有度との関連等についての、東京大学附属図書館所蔵資料を中心とした調査)に従事し、データ収集と整理を行った。 こうした従前よりの検討に加え、万葉仮名よりの平仮名の生成過程及びその後の体系としての成熟過程にも書風史・書体史的観点よりの説明が一部有効であるとの見通しから、早期・初期平仮名資料を中心とした平仮名文献の書風史・書体史的観察を合わせて開始した。 また、これまでのデータ収集の過程から、書風史的観点、書体史的観点を包含した形でのより総体的な文字・表記史記述の方法に就いて理論的に見出された点があり、その現状をまとめて、「国語文字・表記の通史的記述の方法」として口頭発表することを得た(大阪大学国語国文学会)。その中でも、前近代の国語文字・表記史においてリテラシーの観点から最も重要な位置に立つ書簡資料(書札様文書を含む)について、その社会的な書風の統一等に搦めてその文字・表記史的意味についての再考察を口頭発表した(東京大学国語国文学会)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度を含め、これまでの研究期間においては、定期的に必要な資料の原本調査を行うことを得て、着実にデータを収集しつつある。その分析に当たっては、主観的観察に依らない客観的データによる書風・書体の比較・対比等を可能にすることを目的として画像処理ソフトを利用する手法を採用してきたが、この点に関しては、人間の眼により明らかに観察できる書風・書体の類似或いは相違に関して、主観以上に明確な形で数値化することはなお些か困難な状況である。 ただし、その分析の過程で行われた観察によって、書風・書体の伝播と表記規範・表記習慣の伝播との関係に関する別方面からの理論的知見を得ることが出来、当初の計画とは些か異なる形でではあるが、本研究計画の重要な成果として、新たな表記史記述のあり方の一応の提示を行うことが、来年度中中には可能な状況となっている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は本研究計画の最終年度に当たることから、そのまとめとして、データ収集の補完作業と研究成果の公開に注力する。 データ収集については、なお聖教類の一部、近世稿本類に対応する近世版本類について不足の点があり、その2点を主として、関西圏各所蔵者・東京大学附属図書館を中心として補完調査を行う予定である。 研究成果の公開については、現時点で具体的に予定されているのは以下の2つである。①本年度、本研究計画遂行の過程で知見された、初期平仮名字体史記述における書体史・書風史的観点の導入の有効性について、特に特定の仮名字体の交替現象について論文を公刊する予定である。②書体史・書風史的観点の採用から導かれた、美的要素も含んだ総体的文字・表記史記述の方法論考究の成果については、本年度における口頭発表を更に発展させた上で、日本語学会秋季大会シンポジウムにて公けにする予定である。
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