本年度は、最終年度として、これまで行ってきた、①東大寺文書(第三部を中心とする)、東寺百合文書(売券・譲状等の経済文書類を中心とする)、仁和寺所蔵聖教類等、寺院所蔵の典籍文書類、②近世自筆稿本類および文学版本類、③出土資料を含む初期・早期平仮名資料、の三種の資料群を中心とした調査に関して、データの補完を目的とした調査を引き続き行った。 また、それらデータをもとにして行った、文字・表記史記述における書風史的観点、書体史的観点の導入に関する方法論的・理論的考察について、前年度に行った2件の口頭発表(「国語文字・表記の通史的記述の方法」〈大阪大学国語国文学会〉・「手紙―文字・表記史の観点から」〈東京大学国語国文学会〉を更に発展させ、日本語学会2013年度秋季大会シンポジウムにおいて、「文字・表記史叙述の方法」と題して、広く日本語学研究者に成果を公開するとともに、意見を聴取することを得た。 更に、そのようにして構築された理論的基盤を基にした、具体的な国語文字・表記史記述の再構築に関する実践の一部として、平安後・末期における平仮名史の新たな記述を、「十一世紀中頃における平仮名字体―実用的資料と美的資料との関連について―」として公にすることを得た。これは今後目標とされる、平仮名史記述総体の再構築における重要な足掛かりとなる研究成果である。
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