本研究計画では、中世文書を中心とした文書資料群・古写本類や近世自筆稿本類を中心とした典籍資料群を、書風・書体の共通性の観点から再整理したうえで、それぞれの書記史的特徴を観察し直した。その結果、国語文字・表記史の最大の特徴である複線性が、社会的な教養度の階層性に応じて保持されていたこと、即ち、いろは歌書写の一字一音的な平仮名事態による初歩的書記に始まり、教養度の上昇とともに段階的に多くの書記様式を併用できるようになることが前近代国語書記の特質であり、国語文字・表記史の通史的記述に欠くことの出来ない観点であることを明らかにした。
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