宮崎県の宮崎市日向南部方言)、延岡市(日向北部方言)、都城市(薩隅方言)をフィールドに多人数調査および文法事象に関する詳細調査を行う。そこから方言の現況および動態を記述し、現在起きている方言変化のメカニズムを分析する。さらに話者の志向性(パーソナリティ)が方言使用とどのように関係しているかを分析するためのデータベースを作成する。これらが、本研究の主な目的であった。多人数調査では予定よりも多いデータを収集でき、本研究は当初の目的を概ね達成できたと考えられる。 宮崎県の方言研究は、先学の貴重な研究はあるものの、他県と比べると研究報告が非常に少ない。そのような状態で、早野を代表とする研究グループが2005年~2011年にかけて地域差調査を行ってきた。その結果と本研究の調査を合わせることで、宮崎県方言の地域差および方言動態が把握できるようになった。調査報告の少ない宮崎県方言において、本研究の果たした意義は大きい。 宮崎県方言でも伝統方言は急速に消滅してきており、ネオ方言化が進んでいる。たとえば同意要求表現おいて伝統方言では「ネ・ガネ」で表現していたが、活躍層では形容詞「コツネ」、動詞「ゴツゼン」などの否定疑問で表現されるようになり、若年層では「コッセン」「クナイ」が主流となっている。「ゴツセン」を共通語訳したネオ方言形「ヨーニシナイ」も発生している。コッセンはコツネとゴツセンのコンタミネーションによる新方言形、クナイは東京新方言形である。若年層においては、話者の志向性と関係しながら、それぞれの形態が使用されている。 宮崎県方言は、伝統方言形、新方言形、ネオ方言形が入り交じり非常に複雑化してきているが、本研究により、その実態の一部が明らかとなった。
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