研究概要 |
本年度は,本研究の最終年度でもあり,調査結果のデータベース化を進めるとともに,調査結果の分析および考察を行った。 (1)私家集の本文データベース化および画像データベース化 前年度に引き続き『冷泉家時雨亭叢書』承空本私家集上・中・下巻(朝日新聞社,2006年~2007年発行)に収められた,13世紀末から14世紀初頭に書写された片仮名本私家集41種の調査を行った。これら私家集について,先行研究によって互いの系統関係をおさえたうえで,対照本文のデータベース作成をすすめた。同時に,連動する画像データベースの作成を行った。各データベース作成には,パソコン,スキャナ,デジタルカメラなどを利用して画像を取り込み,資料の収集・保存につとめるとともに,電子化をはかることによって整理しなおした。 (2)調査結果の分析・考察 (1)で作成したデータベースを利用して,承空筆本私家集の表記について分析を行った。主に親本である資経本との比較を通して考察を加えた。その結果,承空本は脱字や誤写も含めて,おおむね資経本を忠実に書写しようとしているが,かなづかいのレベルや漢字表記語の選択においては,資経本でゆれがある場合は,承空本ではむしろ統一しようとつとめる様子がうかがわれること,資経本における異体仮名の情報を捨象し,一字を一音に対応させている傾向があることなどを確認した。 承空筆本の場合、片仮名では区別すべき字体の種類は平仮名よりも少なく,語表記を固定しようとする働きは平仮名よりは楽に行われ,おのずと語表記に向かっていったのではないかと考えられる。 こうして,平仮名から片仮名へ,という異なる表音文字間での書写実態の一端を明らかにした。
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