研究概要 |
本年度は、神奈川県小田原市穴部において多人数調査を行った。調査項目はアクセント55、音韻36、文法9,語彙4項目で、調査協力者は86歳から11歳までの72名である。この調査によって、アクセントには東京語の古い型が老年層を中心に発音されることが確認できた。また、音声項目のうち、連濁については現在の東京語ではあまり見られなくなった形が用いられていることも確認できた。このように、東京より古い姿が見られる一方で、若年層を中心に東京語と同じ変化を示すものの存在も認められた。さらに、「雰囲気」のフインキ、「原因」のゲーイン、「体育」のタイクといった発音は高年層にも見られ、首都圏方言の伝統的方言に既に存在していた可能性を示唆する可能性があることも示すことができた。また、ラ行音の撥音化は、関東全域はじめ全国に広く見られる現象であるが、神奈川県小田原市の方言では他の方言より多くの環境で撥音化が見られる。この撥音化の現象の現状も、多人数調査によって確認した。その結果、小田原市方言では、他の関東方言によく見られる、n音で始まる形式の前だけではなく、他の音で始まる形式が後接する場合にも撥音化すること、この現象は現在の若い世代においても見られること、その使用には性差があること、その原因として撥音化した発音に対する意識が関与していることを明らかにした。 これらの事象については東京語についても詳細な調査研究がないものであり、東京および東京周辺の言葉を考えていくときの、基礎となるものと考える。
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